コネクテッド・システム・シミュレーション
コネクテッド・システムとコネクテッド・デバイスのシミュレーションで可能になる製品の効率的な設計と認証
5G/6G シミュレーションで可能になる製品の効率的な設計と認証
5G 通信システムは、超広帯域接続に加え、リアルタイムの通信とインタラクションを可能にする極めて信頼性の高い低レイテンシー通信(URLLC)リンクを提供するとともに、狭いエリア内にある膨大な数のコネクテッド・デバイスをサポートします。5G 通信は、より高速なインターネット・アクセスをより多くのユーザーに提供するだけでなく、強化された IIoT (産業用モノのインターネット)によるスマート製造から安全な自動運転や遠隔手術まで、さまざまな業界で新しい事業の展開を可能にします。
5G デバイス・メーカーやネットワーク・インフラストラクチャー・プロバイダーは、コンプライアンスと安全基準を満たしつつ、期待される高い性能を短期間かつ低コストで実現するという難題を突きつけられています。こうした分野に投資している企業が抱える技術的な課題は、多数の深刻なエンジニアリング上の問題であり、解決されていません。
5G/6G 通信デバイスの設計に必要なマルチフィジックス・シミュレーション
sub-6 GHz とミリ波の周波数帯のユビキタスな 5G 通信リンクには、大規模 MIMO(多重入出力)とアンテナ・アレイ技術が必要です。 これらの技術は、スモール・セル基地局とユーザー機器(スマートフォンなど)の両方で使用されています。
すでに高密度に集積されている小型デバイスを 5G 通信規格に対応させるとなると、エンジニアには相当なプレッシャーがかかります。他の通信システムの感度を低下させてしまうといった、電磁両立性や電磁干渉(EMC/EMI)の問題が発生しない革新的な高性能ソリューションを提供しなければなりません。 特に高密度に実装されたデバイスでは、熱性能に対してより多くの注意を払う必要があります。また、ミリ波周波数で動作する構成要素には、より厳密な機械的許容範囲が要求されます。 こうしたことが、十分に統合されたマルチフィジックス/マルチドメインな製品設計の必要性を高めています。
初期コンセプト調査から仮想コンプライアンス・テストまでの設計プロセスの全段階で、さまざまな物理特性の正確な 5G シミュレーションが不可欠です。ダッソー・システムズはシミュレーション技術のための SIMULIA ポートフォリオを幅広くそろえており、5G システムの設計全体に利用できるマルチフィジックス技術を提供しています。たとえば、Abaqus の機械解析、構造解析、応力解析や、CST Studio Suite テクノロジーの電磁気シミュレーション、その他、熱、疲労、システムのシミュレーションのためのツールがあります。 この技術は 3DEXPERIENCE プラットフォームでサポートされており、チーム間でのコラボレーションが可能です。5G 通信を設計するに伴い対処すべき課題が増えてはいますが、シミュレーションにより、競争力のある製品をスケジュールどおりに、かつ予算内で市場投入できます。
5G から 6G へ
5G ネットワークに続く 6G テクノロジーはモバイル・ネットワークに革新的な進歩をもたらし、データ・レート、レイテンシー、接続性、ネットワーク・パフォーマンスを確実に大幅に向上します。6G に向けての競争において特に重要となる主な要素としては、テラビット/秒の超高速データレートの達成、瞬時の反応時間実現のための大幅なレイテンシー低減、IoT デバイスの大規模接続への対応、容量増強のための高周波数帯域の検討、新しいネットワーク・アーキテクチャの導入、高度な AI テクノロジーと機械学習テクノロジーの統合による性能の最適化などがあります。また、6G では、持続可能性とエネルギー効率に重点を置きつつ、容量、信頼性、セキュリティーの強化も目指しています。スペクトルの可用性、技術の進歩、コストなどの課題はありますが、6G 開発は 2030 年代の商用展開に向けて進められています。
その開発段階では、シミュレーションが重要な役割を果たします。専門担当者はシミュレーションによって、6G を基盤とする複雑なシステムのモデル化とテスト、変数を用いた実験、結果の予測、技術の改良を行うことができます。これにより、リスクの軽減、イノベーションの推進、市場投入までの時間の短縮が可能になります。
5G 情報通信インフラストラクチャー
情報通信インフラストラクチャーによって、データが取得され、転送され、正しい宛先に配信されます。5G モバイル通信では、インフラストラクチャーへの入り口は基地局になります。基地局では、携帯電話からの信号をアンテナ・アレイを介して受信します。アンテナ・アレイの設置性能や他の通信デバイスとの干渉のシミュレーションと予測を行うことができるため、接続を途切れないようにすることができます。
ADAS と自動運転
ADAS システムでは、車両を安全に制御するために周囲の状況を完全に把握することが必要になります。つまり、車線の区分線や標識から、路面状況、他の車両、道路利用者、予期しない障害物まで、あらゆるものを認識できる必要があります。それを可能にするのが車両に搭載されるさまざまなセンサーで、カメラ、レーダー、LiDAR 測距システム、地理位置情報、その他のデバイスなどがあります。安定した 5G などの高速モバイル・データ接続もまた、ADAS システムがインターネット・サービス、スマート道路インフラストラクチャー、周囲の車両、乗客のデバイスに接続するために不可欠です。しかし、そうしたシステムを構成する要素は、他のアンテナや電子機器からの干渉、汚れや雪などの付着物、配置の影響を受けやすいことに注意する必要があります。したがって、安全で信頼性の高い ADAS システムや自動運転システムを設計するには、それらすべての要因にシステム・レベルで対処することが重要になります。
スマート・ファクトリーとスマート製造における IIoT
IIoT (産業用モノのインターネット)とプライベート・ネットワークは、かつてない接続性とデータ連携機能で各業界のデジタル・トランスフォーメーションを推進します。IIoT は、コネクテッド・デバイスとセンサーを駆使して膨大な量のデータを産業機械から収集します。そしてそのデータを分析することで、効率化、予測メンテナンス、革新的サービスが可能になります。プライベート・ネットワークは、産業用リアルタイム・アプリケーションに必要な専用帯域幅と低レイテンシー通信を提供し、信頼性の高い安全なデータ伝送を確保します。しかし、IIoT ソリューションをプライベート・ネットワーク向けに開発、導入するには、複雑な統合、拡張性、セキュリティーの問題など、大きな課題が伴います。シミュレーションを使用すると、エンジニアは IIoT 環境とネットワーク条件を正確にモデル化できるようになり、そうした問題を軽減できます。また開発者は、シミュレーションを通じて制御された仮想設定で設計をテスト、調整してから実際に展開できるため、開発時間とコストの削減と障害リスクの軽減が可能になります。さらに、シミュレーションでは潜在的なセキュリティーの脆弱性とパフォーマンスのボトルネックを特定できるため、堅牢かつ安全で拡張性に優れた IIoT ソリューションが保証されます。
3DEXPERIENCE® プラットフォームはモデルベースのデータ駆動型アプローチを提供します。複雑な 5G 開発にも対応でき、バーチャル・プロトタイピングを容易にすることで IIoT 導入におけるリスクを軽減します。
ウェアラブル端末
スマートウォッチやフィットネス・トラッカーなどのウェアラブル技術の開発に伴う課題には、小型化、電力効率化、シームレスな接続性、アンテナの設計と配置の最適化といったものがあります。シミュレーションはそういった問題に対処するための鍵であり、設計者はプロトタイプを物理的に作成する前に仮想的に改良を重ねることができます。エンジニアはシミュレーションを使用してウェアラブル端末の電磁両立性(EMC)を確保でき、コネクテッドな環境での干渉のない動作を達成できます。また、電磁界ばく露を安全基準内に保つために必要な比吸収率(SAR)レベルの確認にも不可欠です。シミュレーションはデバイスの熱管理にも役立ちます。そうしたことから、シミュレーションはウェアラブル技術の開発に必須であり、イノベーションを推進すると同時に、安全性、機能性、ユーザー満足度の確保を可能にします。
お客様事例
業界をリードする企業が SIMULIA シミュレーション・ソリューションを使用して、どのようにコネクテッドな通信システムを設計、最適化しているのかをご紹介します。
5G アンテナの設計とシミュレーション
アンテナの設計とシミュレーションは、コネクテッド・システムの開発において重要な役割を果たしており、ますます複雑になる環境でもデバイスの通信を効率化します。このプロセスでは、高度な電磁気シミュレーションを活用して、アンテナの放射パターン、インピーダンス、帯域幅を分析します。 シミュレーションにより、物理的なプロトタイプを構築する前に、モバイル通信から衛星ネットワークまで、特定の用途向けにアンテナ設計を最適化することが容易になります。潜在する設計上の問題をシミュレーションで早期に特定することで時間とリソースを節約し、エンジニアはアンテナ構成を改善して厳しい要件にも対応できます。

アンテナ配置
アンテナ配置は、コネクテッド・システムの設計と展開において重要な要素です。どのような環境でも、アンテナの放射パターン、ひいてはシステムの性能に大きく影響する可能性があります。住宅、取り付けシステム、他のあらゆる物体や形状によって電波の伝播方法に変化が生じ、信号強度と受信範囲が影響を受けることがあります。効率的な電磁気シミュレーション・ツールは、アンテナを物理的に設置する前に、プラットフォームがアンテナの挙動に与える影響を分析するのに役立つ高度な機能を提供します。アンテナとその周囲環境とのインタラクションをシミュレーションすることで、設計者はアンテナの配置を最適化して、最大限の受信範囲と性能を達成できます。

受信範囲のシミュレーション

コネクテッド・システムの受信範囲シミュレーションは、通信ネットワークが最適なパフォーマンスを提供できるようにするために重要なプロセスとなります。その環境は用途によって異なり、建物や作業場の内部空間、工場用地、都市、地域などがあります。効率的なシミュレーション・ツールがあれば、エンジニアやシステム設計者は、そういった多様な環境における電波の伝播を仮想的に計画してテストすることができます。シミュレーションでは、設置アンテナの現実的な放射特性に基づいて、信号が構造物や自然の地形、大気条件とどのように相互作用するかを分析します。シミュレーションによって、信号が弱くなる、または干渉が発生するエリアを予測し、アンテナやその他の通信インフラストラクチャーを配置する最も効果的な場所を特定することで、その受信範囲を、広範囲にわたるだけでなく一貫性のあるものにできます。そのようなシミュレーション技術を使用することで、ネットワーク計画者はコネクテッド・システムの信頼性と有効性を大幅に向上させ、不感地帯を最小化し、すべての対象エリアでエンドユーザーの接続性を最適化できます。
EMC/EMI シミュレーション
今日の技術状況においては、各デバイスは同じ電磁スペクトル内でシームレスに機能する必要があります。電磁両立性(EMC)と電磁干渉(EMI)シミュレーションは、複数のコネクテッド・システムが深刻な障害を発生させることなく共存できるようにするために不可欠です。エンジニアは高度なシミュレーション・ツールで潜在する互換性の問題を特定し、顕在化する前に修正できます。シミュレーションによってデバイスの電磁波放射を分析して近くのシステムへの影響を評価することで、規制基準へのコンプライアンスを確保するとともに、効果的なシールドとフィルタリングの使用が可能になります。このプロアクティブな戦略により、生産後にコストのかかる修正が必要になるリスクを大幅に軽減でき、また、高度な技術システムのスムーズな機能を促進できます。

認証

コネクテッド・デバイスの認証は、安全性、性能、環境の持続可能性に必要不可欠なベンチマークです。SAR (比吸収率)や MPE (最大許容ばく露量)といった特定の認証は、ユーザーを保護するため、電磁界へのばく露について安全な範囲内でデバイスが動作することを保証するものです。EMC (電磁両立性)認証と EMI (電磁干渉)認証は、近くの機器に干渉したり干渉の影響を受けたりすることなく、デバイスがスムーズに機能することを証明します。ESD (静電気放電)認証は、突然の高電圧サージに対するデバイスの耐性を証明します。また、IP67 規格や IP68 規格などの防水や防塵性能に関する認証では、環境汚染物質に対するデバイスの耐性が検証されます。新しい ESPR (EU 持続可能な製品のためのエコデザイン規則)などの耐久設計や環境配慮設計に関する基準では、製品の耐久性と環境への影響が評価されます。UN 38.3 や UL 2054 などの規格に沿ったバッテリー認証は、エネルギー貯蔵部品の安全性と信頼性を確保します。シミュレーションは、認証基準を満たすコネクテッド・デバイスの開発を支援します。
さあ、始めましょう
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コネクテッド・システム・シミュレーションに関する FAQ
消費者向けテクノロジー・ハードウェアにはイノベーションが不可欠です。イノベーションによって、メーカーは激しい競争市場で生き残ることができるからです。新しいスマート・デバイスを市場に出すということは、巨大テック企業や機敏なスタートアップ企業との競争を意味します。デバイス・メーカーの研究開発費は過去最大になっていますが、各メーカーは 5G や将来の 6G テクノロジーの需要に応えるべく新製品の開発に多額の投資を行っています。このように前進するには、定期的な設計更新と、FCC や EU エコデザイン規則などの厳しい規格への準拠が必要です。バーチャル・プロトタイピングでは、新製品が確実に仕様と規制要件を満たすようにすることで、コストの削減とリスクの軽減が可能になります。詳細については、ハイテク・ハードウェアのイノベーションにおける競争優位性の維持に関する eブックをダウンロードしてください。
マルチフィジックス・シミュレーションはエンジニアリングで使用される手法の一つで、デバイスのバーチャル・ツインを作成して設計のパフォーマンスを分析します。このアプローチにより、エンジニアは物理的なプロトタイプを構築してテストすることなく、構造応力、電磁場、流体挙動、振動音響などのさまざまな物理的特性をシミュレーションできます。異なる物理現象を統合することで、エンジニアは性能を最適化し、問題を特定し、十分な情報に基づいた設計判断を行うことができます。マルチフィジックス・シミュレーションではサブシステム間のトレードオフのバランスをとることができ、最適な設計の短期間での実現と市場参入の迅速化が可能になります。
詳細は当社のブログ『Why the High-Tech Industry Needs Multiphysics Simulation』をご覧ください。
エレクトロニクスは現代の産業と事業活動の基盤であり、製造からコミュニケーションまで、あらゆるものを支えています。オフィスや製造では、効率的なオペレーションに複雑なエレクトロニクス・システムが不可欠になります。そうしたシステムを支えるのは、オンプレミス・コンピューティングでもクラウド・コンピューティングでも、高速なデータ通信です。半導体やプリント基板(PCB)などの主要な構成要素と、トランジスタ、抵抗器、コンデンサなどの基本的な電子部品が、そのシステムの基盤を形成します。接続の信頼性と低レイテンシーも非常に重要で、特にデータセンターやスマート・ファクトリーではその重要性は一層高いものとなります。詳細については、当社の高速エレクトロニクスに関するホワイトペーパーをダウンロードしてください。
はい。5G 通信は航空交通と干渉する場合があります。連邦通信委員会(FCC)は、C バンドの周波数帯(3.7 ~ 3.98 GHz)を 5G 通信に使用することをモバイル・ワイヤレス業界に許可しました。これは、レーダー高度計に使用される周波数帯(4.2 ~ 4.4 GHz)に隣接する帯域です。レーダー高度計は、対地接近、自動スロットル、衝突回避をはじめとする航空機の安全システムに不可欠なものです。航空業界は、5G 干渉からレーダー高度計を保護する必要性を FCC に伝えていました。その結果、連邦航空局(FAA)は、5G 干渉が発生する可能性がある空港での着陸要件を改訂する耐空性改善通報を発行しました。この通報によって、米国の航空機約 2,500 機と世界中の航空機約 8,000 機が影響を受けました。したがって、5G 干渉を緩和することは、航空機の安全性と 5G 導入の経済的な実現可能性の両方にとって不可欠と言えます。
詳細は当社のブログ『Tackling 5G Aircraft Interference with Electromagnetic Simulation』をご覧ください。
その他の情報
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組織の規模の大小を問わず、シームレスなコラボレーションと持続可能なイノベーションに、当社のソリューションがどう役立つかについて、SIMULIA の担当技術者がご説明します。
はじめに
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