水資源の課題を解決するバーチャル・プラットフォームとは

限られた水資源を守るために、デジタル技術に今できることは?

地球の表面の大部分、およそ70%が海で覆われています。地球上の水の約97%は塩分を含んでおり、残りの約3%となる淡水のほとんどは凍結している状態です。すなわち、人が暮らしや農業、生産活動などに利用できる水は、地球上の水資源全体のわずか1%にすぎません。一方、世界の人口は増え続けています。2050年には世界人口が100億人に達すると予想されており、淡水資源の適切な使用は重要度を増しています。

バーチャル・ウォーター

人の生活を支える水は、世界の経済活動、特に工業製品の生産やエネルギー供給などでも欠かせない役割を果たしています。これに関して、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院の名誉教授であるトニー・アラン教授は次のように述べています。「例えば農業では、土壌水、つまり土壌に蓄えられる雨水が、植物や野菜、果物、家畜の餌となる牧草などにとって、つまり食料生産において最も重要な要素です。しかしながら、これは政治的にも経済的にも可視化されづらい部分です」

異常気象の影響による水不足が深刻化する中、水資源の利用とその経済的影響はこれまで以上に精査される流れにあります。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)に「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」という目標が盛り込まれたことを受けて、水資源の適切な利用について考える国および企業が増えています。

「バーチャル・ウォーター」の意義

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アラン教授は、貴重な水資源の利用に関する意識を高めるために、「バーチャル・ウォーター」というコンセプトを発案しています。「バーチャル・ウォーターとは、ある製品が世に出るまでに消費される水の量を意味しています」と同博士は説明しています。

例えば1杯のコーヒーには150ミリリットル前後のお湯で抽出できますが、コーヒー豆の栽培や精製、輸送に使われる水を加えると、コーヒー1杯に必要な水資源は140リットルにも上ります。さらに大きな規模で考えると、1トンの小麦を生産するには1,000トン以上もの、1トンの牛肉を生産するにはその15倍もの水が必要です。製造業も同じように大量の水を消費しています。自動車1台の生産に必要な水の量は15万リットルにも上ります。

自動車の需要が世界規模で急増すれば、地球上の淡水資源に大きな負荷がかかるのは明らかです。アラン教授は、この現状について、次のように述べています。「現在の産業に必要となる水の供給量をこのまま維持することは不可能です」「もっと懐疑的な視点に立って適切な行動をとらなければなりません。つまり水資源の価値をしっかり理解するべきです」

水資源の利用を理解する上で「バーチャル・ウォーター」の考え方は重要ですが、その理解に基づき具体的なアクションを起こすための手段も必要となってきます。これについて、アラン教授は次のように述べています。「(水不足のような)差し迫った事態に陥ったとき、政治的な観点からは次のような考えが浮かぶことでしょう。「どこからなら、もっと水を手に入れられるだろう?」そうではなく、解決に向けた別の観点を持つこともできます。「今よりも上手に水を使うことはできないだろうか?」。問いの立て方を間違えると、正しい答えにたどり着くことはできないのです。

バーチャル・ツールによる解決

ドロップ

こうした質問に対して、ダッソー・システムズが開発しているバーチャル・ツールは一つの答えとなります。3DEXPERIENCEプラットフォームでは、バーチャル空間と3Dモデルを使うことで、新製品や新しい業務プロセスの開発と連携作業を、全員が同時に進めることができます。試作モデルの作成や度重なる検討のために、貴重な資源を大量消費する必要はもうありません。

「バーチャルツイン」を使うと、新製品や新しい業務プロセスの将来シナリオ(製造・出荷・消費・廃棄など)をソフトウェアで詳細モデル化し検証できるため、そのシナリオに沿って必要な水の量を予測し、どうすれば効率的に利用できるのかを検討できます。つまり、データ・インテリジェンス、3Dモデリング、可視化といった技術群を組み合わせたこのシステム(バーチャルツイン)は、これから世に出る製品やサービスが消費するであろう水の総量(ウォーター・フットプリント)をプロセスごとに把握すうrことを可能にします。。これにより、製品やサービスをより少ない水消費量で設計、製造、輸送することができ、その利益は消費者にも還元されます。

ダッソー・システムズのチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)であるアリス・スティーンランドは次のように述べています。「私たちは、当社のソフトウェア・ソリューションをご利用になるお客様が、自分たちのイノベーション・プロセスが水資源に与える影響をあらかじめ把握できる機能の提供に取り組んでいます。具体的には製品設計、製造ライン、解体工程といったプロセスごとに理解することができます」この強力なツールにより、グローバルなサステナビリティ・トランスフォーメーションを加速させたいと考えています」

水の消費が産業界に与える影響を把握するためのダッソー・システムズの取り組みは、3DEXPERIENCEプラットフォームだけに留まりません。ダッソー・システムズは2020年末に立ち上げた「ウォーター・フォー・ライフ」キャンペーンを通じて、「測定・最適化」「革新・創造」「教育」という3つの観点から、水の消費と保全に関する意識を高めることを目指しています。ダッソー・システムズの取締役副会長兼最高経営責任者(CEO)、ベルナール・シャーレスは次のように述べています。「水は命の源です。当社は今後10年間、科学やエンジニアリングの力を結集し、水資源の保全に貢献できる新しいソリューションの創出に尽力します。これは『バーチャル世界が現実の世界を拡げ、高めていく』という当社の信念そのものです」

知識のつながりと広がり

知識のつながりと広がり

ダッソー・システムズは3DEXPERIENCE Labを通じて、自社で培ってきた専門知識を共有し、新しいオープン・イノベーション・プロセスを世界中に展開しています。これにより、インキュベーター、メンター、アクセラレーター、ファブラボといったイノベーションのエコシステムを作り上げ、スタートアップの製品開発やプロジェクト推進を支援しています。例えば、フランスのEEL Energy社は、3DEXPERIENCEプラットフォームを使用して、ウナギの泳ぎに着想を得たバイオミミクトリー(生物模倣)手法により、海流や川の流れから電気を生成する、波動膜を開発しています。

また、水資源の保全という長期的な課題に取り組む上で、教育・研究が果たす役割は重要です。ダッソー・システムズは、教育・研究向けソリューションである3DEXPERIENCE Eduを通じて、年間500万人の学生やスキルアップを目指す社会人の学びを支えています。工学系専門教育を受けているフランスの学生達はグリーン・タートル・プロジェクトを立ち上げ、ダッソー・システムズの流体シミュレーションと設計モデリングの専門知識を活かして、海洋ごみを追跡・収集する亀形ロボットを設計しています。

ミッション・オーシャンは、中高生を対象とした画期的なデジタル教育プログラムです。このプログラムは、数学、物理、化学、地理、生命科学、地球科学などを専攻する生徒たちの学習を促進し、彼らが知識を深められるよう手助けするとともに、彼らが海洋保全をめぐる課題をより深く認識できるようにしています。

このプロジェクトはラ・フォンダシオン・ダッソー・システムズ、仏国民教育省、仏海洋開発研究所(IFREMER)の三者が協力して立ち上げたものです。このプロジェクトを通じて学生たちは、環境問題の解決に向けた行動力を培い、将来のキャリアに向けて必要なトレーニングや仕事内容をイメージできるようになります。このプログラムは2021年にフランスで展開後、フランス以外の国の学生向けにも展開される予定です。

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