PowerFLOW:吸気ポートのシミュレーション

 

吸気系システム

 

車両アプリケーションの内燃エンジンは、吸気系システムを介して周囲から新鮮な空気を取り込んでいます。吸気系システムの設計は、エンジンの性能に影響を与える重要な要素です。吸気系システムの性能を評価する際の重要なエンジニアリング基準のひとつは、Rise over Ambient(RoA)値です。これは、当該環境条件においてエンジンの吸気ポートで気温がどの程度上昇するかを示すものです。エンジン・メーカーは通常、エンジンを適切に機能させるための設計上限を指定しています。これに加えて、熱力学面での効率が高まるため、RoA値が低い方がエンジン性能が高まります。一般的には、定義済みの車両運転サイクルの平均RoA値を報告します。

技術面での課題

吸気系は、吸気シュノーケル、エア・ボックス、エア・フィルター、チューブなどの複数の主要な構成部品から成っています。これらは熱交換器から発せられる熱気にさらされたアンダーフードの環境にあるため、高温になりすぎた熱気を引き込まないように吸気シュノーケルを適切に配置する必要があります。それに加えて、周囲の高温部品から吸気への伝導およびふく射による熱伝達を制御し、RoA値を設計の制限値の範囲内に収める必要があります。さらに、吸気系を最適化する場合は、水/雪の吸い込みや騒音特性といったその他の車両設計要件を検討しなければなりません。

車両のアンダーフードの流れ場および温度場の複雑性を考慮すると、物理的なテストを介して得られる限られた測定データに基づいて吸気系全体を設計することで、これらのエンジニアリング目標を達成することは困難です。一般的に、試行錯誤を繰り返して許容可能な設計を特定するには、複数の試作品を作成してテストする必要があります。それに加えて、最終段階で設計変更が発生した場合、車両開発のコストが大きく膨れ上がります。このため、車両開発の初期段階で吸気系を最適化できるように、RoA値を予測するためのシミュレーション手法を持っていることが重要になります。このシミュレーション手法は、アンダーフードの流れ予測に関与する複雑な物理特性を取り込める程度に高度なものでなければなりません。それと同時に、車両運転サイクルに関連付けられた比較的長い物理的な時間スケールに対処できる程度の計算効率を備えている必要もあります。

SIMULIAソリューション

SIMULIA RoA流体シミュレーション手法では、PowerFLOWを使用して流れ場および温度場を計算します。アンダーフード構成部品の形状の詳細はすべて、完全に解析できます。一般的に、熱交換器からの排熱がアンダーフード部分での気温上昇の主な原因となります。こうした場合、PowerCOOLとPowerFLOWを組み合わせることができます。PowerFLOWとPowerCOOLを組み合わせて実行する場合の設定とシミュレーション・プロセスは、シームレスに統合されます。特定のRoA調査で採用されている車両走行サイクル・パターンによっては、そのサイクルの車両運転条件をいくつか表すために、連成シミュレーションを複数回実行する必要がある場合があります。

アンダーフードの流体シミュレーションの結果は、時間依存の流れおよび気温境界条件を定義するために補間されます。RoA調査の典型的な運転サイクルは数分以上に及ぶため、最大限の計算効率を達成できるように、吸気系の主要な構成部品(シュノーケル、エア・ボックス、エア・フィルター/クリーナー、チューブ)のみを含む完全な形状モデルのサブセットが2番目のステップとして作成されます。形状および境界条件をマテリアル・プロパティ情報とともに使用するRoAシミュレーションは、伝導およびふく射ソルバーであるPowerTHERMによって実行されます。PowerTHERMの非定常シミュレーションは吸気ポートの気温の履歴を計算し、特定の運転サイクルの平均RoA値を見積もります。

SIMULIAシミュレーション・アプローチにより、以下が可能になります。

  • 車両開発プロセスの初期段階で定義済みの運転サイクルのRoA値を見積もり、エンジン要件によって課される設計の制限値と比較する。
  • 吸気温度の上昇の原因(流れの漏れおよび再循環、過度な熱ふく射、別の高温部品からの熱伝導など)を特定し、その情報を使用して適切な対策を立てる(パッキン、遮熱材、吸気系構成の変更など)。
  • アンダーフード構成部品レイアウトの最適化により、シュノーケル吸気口の最適な場所を決定する。