冷却風流れ向けPowerFLOW

 

熱交換器に十分な冷却風流れを通すことは、車両の熱マネージメントにおいて不可欠な要素です。エンジン冷却、変速機、HVAC、パワー・ステアリングなど多くの車両システムには重要な冷却要件が定められています。そして、その熱効率は燃費、性能、乗り心地に直接影響を与えます。冷却風流れ管理システムの設計では、フロントエンドの外観に関する制約と設計上の問題、さらに車両性能の特性(空力性能など)とのトレードオフも考慮する必要があります。最近の業界の傾向として、より高度な排熱要件やアンダーフード・パッケージングの密集化に取り組みながら、一層パワフルなエンジンを追求することが求められます。このため、効率的な冷却風流れシステムの設計に大きな課題が生じています。またOEMは、さまざまな保証要件を満たすため、エンジンや変速機などサプライヤーから供給される構成部品が、指定の温度範囲で動作することを確認しなければなりません。そのため、製品開発の初期段階で、熱部品や熱システムの冷却を正確に予測する能力が必要です。

技術面での課題

冷却風流れの正確な予測には、実際の車両走行条件のもとで熱マネージメントシステムの性能を正確に予測する必要があります。エンジンルームの流動パターンと温度分布は、非常に複雑で非定常です。これは、ラムエアと冷却ファンの気流が複雑に交わるとともに、熱システムからの放熱で空気密度と温度が変化することが原因です。また、車両の走行状況や精密な形状も大きく関係します。このため、高忠実度のシミュレーションを実行し、冷却風流れの予測に関連する物理特性を捉えることが不可欠です。

システム設計上の課題は、車両の熱マネージメントです。最新型の車両によく採用される複数の熱交換器や、エンジンルームにある冷却ファンやシュラウド、エンジン・ブロックなどの構成部品、さらにシステムレベルのコントローラなどが複雑に作用し合っているためです。システムレベルで性能を最適化するためには、システム全体の解析が必須です。

SIMULIAソリューション

PowerFLOWは、独自の本質的に非定常な格子ボルツマン法に基づく物理解析により、極めて複雑な形状でも実世界での非定常条件を正確に予測できます。各シミュレーションでは、車両周りの空気流、エンジンルームや床下を通る空気流について正確なタイミングで変化を予測します。空気密度と温度の変化、速度場に対するそれらの影響がすべて解析の対象となります。これは、浮力効果が大きいアイドリング状態で特に重要です。詳細な形状までシミュレーション可能なため、局所の流れ場における形状細部(漏れや再循環を防止するパッキンなど)の影響を調べることが可能です。冷却ファンは、特に低速走行時において冷却風流れを促進する重要なメカニズムです。PowerFLOWでは実際に回転する形状を解析できるため、回転する冷却ファンを正確にシミュレーションします。

熱交換器による排熱は、完全統合型の熱交換器モデリング・ツールであるPowerCOOLを用いて計算できます。PowerCOOLでは、PowerFLOWからインプットされた正確な空気流分布データを使用し、冷却側の温度分布、上部タンク温度、排熱の情報を算出します。また、ラジエーター、インタークーラー、オイルクーラー、コンデンサーなど、クロスフロー型の多様な自動車用小型熱交換器に対応することができます。

この連成シミュレーション手法により、以下を解析できます。

  • 車両のさまざまな走行条件(高速、低速、アイドリング状態など)のもと、車両の内部条件(複数の熱交換器、ファン、シュラウド、ブロッケージ効果など)に沿って熱交換器とファンの性能を予測します。
  • 冷却パッケージに含まれる個々の構成部品の設計を改良し、効率性を高めます。
  • 熱設計の制約事項を考慮しながら、冷却システムの多様なレイアウト・コンセプトを解析します。
  • 車両のフロントエンド設計(グリル開口部のサイズ、位置、テクスチャ)と冷却風流れとの関係を特定します。
  • エンジンルームの構成部品のレイアウトを最適化し、冷却風流れに対するシステムの抵抗を最小限に抑えます。これは、車両の空気抵抗全般に影響を与えます。

PowerFLOWの冷却風流れソリューションを活用することで、熱風洞で試作品を実験する必要性を大幅に減らすことができます。また、試作品を作成する前に、冷却パッケージの設計とテストを行うことが可能です。このため設計コストが大幅に削減され、最初の試作品の品質も劇的に向上します。Renault社では、熱風洞での実験に要する時間が約30%削減されたことが報告されています。また、AGCO社(農業機器メーカー)とBentley社(高性能車両メーカー)も、冷却性能の大幅な向上に成功したことがわかっています。